5分で読むムーミン小説:ムーミン谷の十一月(1)

公開日:2018年4月21日  更新日: 2020年01月02日 関連分類:

ムーミン小説ダイジェスト版の制作もいよいよ最終作『ムーミン谷の十一月』を迎えることになりました。

より短く、より早く読めるように、物語の要点が漏れないように心掛けて製作していますが、いかがでしょうか。

 

原作者トーベ・ヤンソンのムーミン小説最終作『ムーミン谷の十一月』は初めてムーミン一家の誰も登場せず、ムーミンたちに関係する人々が集まって生まれる物語です。

果たしてどのような物語になったのでしょうか。

 

ムーミン谷から旅に出るスナフキン

ある朝早く、スナフキンはムーミン谷のテントの中で目が覚めました。

辺りはひっそり静まり返っていました。

しんみりとした秋の気配がします。

 

旅に出たいなあ。

 

スナフキンはすぐさまテント、炭火を片付け、リュックを肩に引っ担ぎ、誰にも邪魔されるチャンスがないように出発し、夢中に走りました。

 

※写真出典書籍:『ムーミン谷の十一月』講談社、トーベ・ヤンソン/作・絵、鈴木徹郎/訳、1984年発行

 

あとで友達が目を覚ましたらこういうでしょうね。

「あいつ、旅に行っちまったよ。秋になったんだねえ。」って。

 

雨が降り出しました。

 

スナフキンフィリフヨンカが住んでいる谷に来ました。

フィリフヨンカの家の前を通った時に思わずはっと息をのんでしまいました。

 

※商品ページ:幻の ムーミン シート: スナフキン / ヴィンテージ品 / フィンランド 北欧

 

夏なら家の周りにバケツやうっかり置いたままの帽子、猫にやるミルクのお皿など置いてあるのが普通だが、この家の周りは何もありませんでした。庭椅子も庭テーブルもでした。

 

フィリフヨンカは家の中で絨毯叩きをしていました。

スナフキンはどんどん前に進みました。

 

スナフキンはパイプに火をつけ、ムーミン谷のことを想像しました。

ムーミンパパは時計と気圧計のねじを巻き、ムーミンママはかまどに火をもしつけ、ムーミンはベランダに出て、おや、テントがなくなっちまったと気付いているところだろうなと。

 

スナフキンは大きいな入り江の畔にやってきました。

そこには家が一塊になってぴったり寄り合っていました。

 

※写真出典書籍:『ムーミン谷の十一月』講談社、トーベ・ヤンソン/作・絵、鈴木徹郎/訳、1984年発行

 

雨の表には人っ子一人出てきませんでした。

ここには、ヘムレンさんと、ミムラ姉さんと、ガフサが住んでいました。

 

スナフキンは音も立てず、素早く歩いていきました。

 

ヘムレンさんのヨットが鼠色の防水布をかぶせて繋いであります。

ヨットの中にはちびっこホムサがいてスナフキンの足音に自分の息を殺していました。

 

スナフキンは続いて奥の森に足を踏み入れました。

 

お話を作るのが大好きな小さいホムサ

しとしとと、いつまでもいつまでも雨は降り続きました。

 

ヘムレンさんのヨットの中にこっそり住んでいるホムサはトフトという名前でした。

 

ヘムレンさんは年に一度だけ、春になるとヨットの防水布を取り除け、ヨットのひびがひどいところにタールを塗ります。

ヨットを持っていてもヘムレンさんはヨットを操ることができないので、今まで一度も海に出たことがありませんでした。

 

ホムサはヨットの中にある輪に束ねたロープの中で自分で作ったお話を自分にして聞かせます。

 

 

それはあの幸せなムーミン一家の人たちのお話でした。

話を聞いていると、ホムサはいつもムーミン谷にいる気分になっていました。

 

ムーミンパパの薪ぎ小屋があり、ムーミン屋敷はすぐそこです。

谷間の空が高く、かすかになり渡る風を吹かせます。

 

ふいに周りの景色にみるみる灰色の霧が立ち込めてきました。

閉じている眼の中が真っ暗になりました。

話を聞いているホムサは眠りました。

 

その後、真っ暗闇の中で目が覚めると、もうホムサにはどうすればいいのかわかっていました。

ヘムレンさんのボートをこのまま残して本当にムーミン谷へ道を探し、あのベランダに上がり、玄関のドアを開き、自分のことを知ってもらうことです。

 

一人暮らしのフィリフヨンカが始める大冒険

11月のある木曜日に雨がやみました。

 

フィリフヨンカは屋根裏部屋の窓を拭くことに決めました。

 

屋根裏部屋に上がり、窓を開き、片足を外側に踏み出すとフェルトのスリッパが雨に濡れていきなりつるつるして屋根の下のほうに向かって滑り出しました!

 

 

 

 

怖いと思う暇もなくドシンと鉄砲玉みたいな勢いで滑り落ちていきます。

 

コツン。屋根の襟に足がぶつかるとようやく止まりました。

体がじっとしたとなると今度こそ怖くなってきました。

 

大声をあげようと思っても顎が言うことを聞きません。

おまけに大声で叫んだって助けてくれるような人は周りにいません。

 

フィリフヨンカは必死に上にほうに這い上がろうとしても屋根板がつるつるしてすぐにすべすべして後戻り。

 

そういえば家の反対側に避雷針が立っていて屋根裏部屋に繋がっていると思い出しました。

 

そろりそろりフィリフヨンカは横ばいに屋根の端沿いに体を横ずらし始めました……

あ、避雷針が手に触れました!

命がけの思いで避雷針を掴みました。

 

たった一本の細い針金を掴んでゆっくり屋根を這い上がっていきました。

屋根で四つ這いになり、立つことができず、急傾斜の屋根が見え、その先に屋根のヘリが見え、その先に下まで何もないことが見えています。

 

また屋根で体を少しずつずらして窓のほうに近づこうとしました。

とその時……

 

続く。

 

※参考書籍:『ムーミン谷の十一月』講談社、トーベ・ヤンソン/作・絵、鈴木徹郎/訳、1984年発行

 

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