2000年前後以来、様々な評価結果で高い結果を残しただけではなく、独特な特徴を持つフィンランドの教育は世界で名高く、日本でもよく耳にします。
しかし、歴史的な面から見るとフィンランドは教育大国ではありません。
長い間スウェーデンとロシアの属地だったフィンランドは1970年代中期まで教育分野のパフォーマンスはOECD各国の平均以下程度に留まっていました。
※OECD:Organisation for Economic Co-operation and Development、経済協力開発機構
当時までフィンランド国内の経済構造も知識産業中心ではなく、天然資源をベースとする基礎産業が中心でした。
しかし、それは現在フィンランドのGDPに占める研究開発投資金額の割合が既に世界トップレベルに達し、見事に国内経済産業を知識産業にシフトできたのです。
このような経済産業の変化は教育変革の成功による結果とも言えます。
それでは、果たして1980年代当時フィンランドの教育変革はフィンランドにどういう教育をもたらしたのでしょうか。
なぜフィンランドの教育は素晴らしい結果を出す生徒を育てることに成功できたのでしょうか。
今回は世界銀行(World Bank)の教育専門家がフィンランドの教育変革について発表されたレポートの内容をご紹介します。
情報出典:A short history of educational reform in Finland, Pasi Sahlberg, April 2009
1980年代フィンランド教育の変革にある4つのポイント
1980年代からフィンランドが全国レベルで実施した教育変革には主に4つの特徴があります。
- 教育を受ける人口比率の向上
- 学校の教育パフォーマンスの均一化
- 国際的な生徒学習評価でいい結果を出す
- 教育費用はほとんど国が負担し、全体の費用も適切にコントロール
それでは、それぞれの項目の詳細を見ていきましょう!
教育を受ける人口比率の大幅向上
1970年代から各年齢層のフィンランド人が教育を受ける比率が伸びてきました。
特に伸び率が高いのは1980年代期間中の高校や高等職業学校教育を受けた人の比率です。
しかも、1970年代に大学以上の学歴を持つ人の割合が僅か7%だったが、2010年には28%まで成長しました。
2008年フィンランド統計局のデータによると、99%のフィンランド生徒は中学を卒業し、中学を卒業した生徒の95%は高校もしくは高等職業学校へ進学し、そのうちの90%は無事卒業したそうです。
しかも、フィンランド人成人の中で約50%以上の人が何かしらの成人教育コースを受けています。
最も驚くことは、フィンランドでは教育費の98%は国が負担しています。
一般国民が自分の財布から出す教育費は全体のわずか2%のみです。
OECD各国の平均では、教育費の13%は国民自分の財布から捻出されています。
教育費用を国の予算で賄うことがフィンランドで1980年代以降に教育の普及の大きな力になりました。
学校の教育パフォーマンスの均一化
1970年代までフィンランド生徒の学習結果の格差が大きかったです。
当時生徒の学習評価結果(成績)は主にそれぞれの家庭の所得に影響され、高い所得の家庭では子供の学習パフォーマンスが良く、所得が低い家庭では学習パフォーマンスが悪いという傾向でした。
しかも、1980年代中期までに学校では生徒の学習評価結果によって3レベルに分け、それぞれ別のクラスで勉強することをしていました。
1980年代中期にこの制度を廃止し、生徒の学習評価結果によらず、全てのレベルの生徒が同じクラスで勉強することにしました。
この変革によって生徒の学習パフォーマンスの差が徐々に縮んできました。
その成果が2000年のPISA評価(OECD’s Programme for International Student Achievement)で現れました。
異なる学校の間にある生徒の学習パフォーマンスの差に関し、OECD諸国平均は33%で、フィンランドはわずか5%でした。
このことは、フィンランドが僅か20年間の比較的に短い期間の中で、パフォーマンスがとても均一な教育システムを作り上げたということです。
世界的にも見たことのない例と言えるでしょう。
国際的な評価基準から見るフィンランド生徒のパフォーマンス
既に広く知られた情報ですが、フィンランドは近年常にPISAで高い結果を残してきました。
注目してほしいのはその点数だけではなく、生徒のパフォーマンスの分布です。
他の国ではとても高い点数をたたき出した生徒も少なくないですが、フィンランドでは低い点数の生徒や高い点数の生徒が比較的に少ないです。
大部分の生徒の成績が中間付近に分布しています。
この教育パフォーマンスの均一化によってもたらせた成果とも言えるでしょう。
僅か25年間の教育改革でここまで学生のパフォーマンスを引き上げることに成功したのもフィンランド教育のすごさです。
しかし、PISAなど国際的な評価基準だけで一国の教育を評価するに本当に妥当なのかという議論も非常に盛んでいます。
そのため、一つの結果だけで一国の教育を判断するのは必ずしも妥当ではないと認識してもらいたいですね。
教育費用を適切なレベルに保つ
フィンランド教育の最後の特徴は「教育費用全体を適切なレベルに保つことができた」ことです。
フィンランドの教育費用の98%は国が負担しています。
となると、その教育費用が一体国として高いのか、低いのかですね。
2005年の6~15歳の生徒一人当たりの教育費(国と個人の出費を合わせて)を見ると、フィンランドはOECD各国の中で平均値レベルです。
費用は平均値程度ですが、学習パフォーマンスがトップという意味では予算が効率的に、効果的に使われていたということを示していますね。
フィンランドの学校を実際に見学すると目に見えるものも多いですが、過去にはこのような変革や教育政策があったことを事前に知っておいたほうがより現場の状況が理解しやすいでしょう。
是非ご参考ください。
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